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私の好きなモノの感想を只管述べているだけのブログです。

ペイル・コクーンと比較したサカサマのパテマの素晴らしさ @映画「サカサマのパテマ」見た感想

今更ながら見たので、ツラツラと感想をば。良作。

サカサマのパテマ 通常版 [DVD]

まず、この作品。吉浦監督の過去作品である「ペイル・コクーン」という作品を下地に作られている感じを受けた。

同氏は「水のコトバ」を下地に「イブの時間」を制作しているのでさもありなんだろう。

なお、以降は「ペイル・コクーン」と「サカサマのパテマ」のネタバレになるので、ネタバレが嫌いな人は回れ右を推奨。

 

そもそも、私が元ネタだと言っているペイル・コクーンとはなんぞやというと。同氏が初の商業作品として作った短編SFアニメである。

この作品では主人公が荒廃していく地球のことを認められず、真実を自分の目で確かめに行くというお話。

最終的に主人公たちは地球に住んでいると思ったら月に住んでいて、荒廃した地球は実は綺麗に残っていて、ちょっぴり希望が残されるというオチになる。

つまり、”認識”が逆さまになっている作品だったといえる。

 

以上のような同氏の「ペイル・コクーン」の逆さまは”重力”として「サカサマのパテマ」に引き継がれる。

一方、サカサマのパテマでは、ペイル・コクーンにはない要素が多数存在する。

 

まず、なんといっても敵が存在することである。ラピュタで言うところのムスカがこの作品には存在する。そりゃもうガッツリと。

また、ペイル・コクーンでは主人公が、ほぼ一人で自己完結(恋人っぽい子はいるが)するのに対して、この作品では主人公とヒロインがパズーとシータ並に冒険する。

従って作風がSFから王道ジュブナイルにガラッと変わっている。

この作風の変化によってだいぶアクションやら山場が追加されエンタメ色の強い作品に変貌したように思える。

 

また、対比的な表現に凄く重点の置かれた演出構成になっている。

地上人と地底人もそうだが、男女、主人公と敵、探せば沢山対比的な表現がされている。

前作(ペイル・コクーン)では対比的な部分はそこまで強くなかったが(過去と現在、月と地球くらいか?)

今作(パテマ)はその傾向が強い。

 

私が魅力的に感じたのは上述した要素をペイル・コクーンに足すことで

作品に新しいテーマを上手く組み込んだ点である。

 

この作品では物語序盤から中盤にかけて、この作品の対比的な表現に加えて、重力が逆さまにした理由を常々考えさせられることになる。

逆さま状態の主人公とヒロインは、まるで相手を上手く認識できない他人と自分を絵で見ているようである。

また、ヒロインが色々なシーンで空に落ちそうになるシーンは、不安定な精神状態をよく表しており、

敵と主人公のヒロインに対する接し方の違いは他人を思いやる心の違いのように見えて面白い。

そして、主人公たちが空に落ちた先のシーンでは、主人公とヒロインがお互いのことを正しく認識できたことが上手く表現される。

 

つまり、逆さま状態のキャラクター同士を絡ませたり、空に落ちそうになるシーンによって

他人を理解する思いやることの難しさや、頼りのない不安定な状況の辛さ、それに立ち向かう勇気を上手く表現している。

重力を”逆さま”にすることで、こんな演出が可能になるのかと感じさせられた良い作品だった。

 

ただ、ペイル・コクーンで良かったなぁと思ったところは地球やロケットのように、大きいモノを引きのシーンで写すことで壮大さが凄く演出できていたし、印象に残りやすかったが、

今回はそういうシーンがあんまりなかったように思える。もう少し何かモニュメントのようなものを上手くシーン作りに取り入れるべきだったかもしれない。

ただし、全くなかったかと言えばそうではなく。地下の一番最初のシーンや、地上の小屋は中々よかった。

不満点として残るとすれば、主人公の学校のシーンや、敵のアジトにもモニュメントのようなものが欲しかったかもしれない。